上顎洞底挙上術に超音波骨切削器具を使用して後上歯槽動脈損傷を回避した1症例

O-45 上顎洞底挙上術に超音波骨切削器具を使用して後上歯槽動脈損傷を回避した1症例

A case report of avoiding posterior superior alveolar artery injury using the ultrasonic bone cutting device

○ 須永 亨1),河原 正和1),庄司 一恵2),萩原 勝雄1),関根 智之1)
○ SUNAGA T1), KAWAHARA T1), SYOUJI K2), HAGIWARA K1), SEKINE T1)

1)NPO 法人埼玉インプラント研究会,2)日本インプラント臨床研究会
1)NPO Saitama Implant Association, 2)Clinical Implant Society of Japan

Ⅰ目的: 上顎臼歯部欠損に対するインプラント治療では,骨量不足によってインプラント埋入が困難となる場合が多い.そのため上顎洞挙上術などの骨移植術が必要となるが,後上歯槽動脈損傷の危険性が高い症例も少なくない.本症例では,ラテラルアプローチの開窓予定部位に後上歯槽動脈の走行を認めたため超音波骨切削器具を使用して骨開窓を行い,後上歯槽動脈の損傷を回避し,上顎洞底挙上術およびインプラント治療を行った結果,良好な機能的回復を得たので報告する.

Ⅱ症例の概要: 患者は73歳男性.他院にて義歯による補綴を行われたが違和感が強く,インプラント治療を希望し2011年6月来院.歯周基本治療後パノラマX 線,CT撮影を行った.診断の結果,左右上顎臼歯部ともに歯槽頂から上顎洞底までの残存骨が最も薄いところで2mmであった.残存骨量からソケットリフトなどの垂直アプローチは難しく,さらに右側上顎洞壁に上顎洞底部から7~8mmの位置に後上歯槽動脈の走行を認めたため,超音波骨切削器具を使用して右側上顎洞底挙上術(ラテラルアプローチ)を行った.同様に左側上顎洞底挙上術を行い,6ヶ月後にジンマー社製インプラント直径3.75mm長さ11.5mm を左右2本ずつ埋入した.下顎左側臼歯部にはBIOMET3i社製インプラント直径4mm長さ10mm を2 本埋入した.術後の経過は良好で,3ヶ月後に2次手術を行い最終補綴へと移行した.最終補綴後の経過は良好で,臨床上の症状,歯周組織の状態,パノラマX線写真においても異常は認められなかった.患者は違和感を訴えることもなく満足している.

Ⅲ考察および結論: 今回の症例のように開窓部に後上歯槽動脈の走行を認めるケースは少なくない.このようなケースに従来のエンジンを使用して骨開窓を行うことにより後上歯槽動脈損傷の可能性が高くなる.骨開窓を行う際,超音波骨切削器具の使用は,手術をより安全に行うことができるため大変有効な手段である.今後も注意深く経過を追っていく必要がある.